不眠

不眠に苦しんでいる人は多い。入眠困難が多く、ついで中途覚醒、早朝覚醒の順です。

不眠の原因で最も多いのは、心配・悩みの多い人。日中、頭ばかり使って体を動かさない、肉体疲労のない人、

子供時代、たっぷりと恩恵を受けていた松果体ホルモンメラトニンの分泌低下した人。

 

睡眠の中枢は、脳の深いところ視床下部にあります。視床下部には、①体内時計(概日リズム調整時計)、②高位自律神経中枢、③睡眠覚醒中枢、④摂食中枢が仲良く隣合わせに収まっています。この仲良しグループは、体内時計とメラトニンによりコントロールされています。


不眠を治すには ⇒まず、体内時計を正常化する

不眠でお困りの方は、害のない薬を手っ取り早く処方してもらって、ぐっすり眠りたいと受診されます。このイライラとした治療希望は、かえって不眠を悪化、複雑化させます。まず、あなた自身、不眠の原因である体内時計の夜昼リズムを正して下さい。

人類は、数万年の歴史の中に、PM20時(8時)を夜の始まりとしていました。人類が、火を焚き、照明を手に入れて以来、この数千年、体内時計はPM21時(9時)を夜の始まりと認知しました。さらにこの100年、蛍光灯、LEDを手に入れ、体内時計はPM22時(10時)を夜の始まりと認知しました。深夜12時まで起きている人は、10時に夜の睡眠に入っている体内時計を光刺激によって混乱させているのです。

体内時計の機能障害: 夜9時、10時過ぎて、スマホ、パソコン、タブレットなどのブルーライトを目に入れると!!

  • 概日リズム:昼夜のサイクルが乱れます。
  • ホルモン分泌の調節:主にメラトニン、成長ホルモンの分泌が減少します。
  • 自律神経の調整:体内時計が乱れると、自律神経の働きが乱れ、健康被害を起こします。
  • 睡眠障害:睡眠と覚醒のリズムが乱れ、遅寝、不眠の原因となります。
  • 食欲の乱れ:摂食中枢の乱れは、朝ごはんを食べないなど食生活が乱れます。
  • 消化吸収の障害:消化不良、便秘、下痢をきたします。
  • 精神的な不調:イライラ落ち込み、集中力の低下などをきたします。

 

 今までの説明でおわかりかと思います。睡眠中枢/体内時計/自律神経中枢の三者は、仲良く向こう三軒両隣の関係にあります。

夜遅くまで起きて、眼に過剰な光を入れると体内時計は興奮します。→この興奮は、隣の睡眠中枢と自律神経の中枢を興奮させます。

 

ぐっすり睡眠には、体内時計と自律神経の鎮静化、安定化を必要とします。

夜8時になったら、部屋の天井照明を切って間接照明に切り替えて下さい。

夜9時以降は、テレビ、スマホ、タブレットなどブルーライトの多い画面を見ないで下さい。なぜなら、夜9時は、昼間の覚醒ホルモン、セロトニン、オレキシンと夜のホルモンメラトニンが交代する時間だからです。

 

その他 の不眠の原因

うつ、イビキ無呼吸、ムズムズ脚、レム睡眠行動障害、肩こり、頭痛、めまい、頻尿(過活動膀胱)、腰痛、飲酒は不眠の原因となります。これら病気の治療や、寝酒などの生活習慣の改善は大切です。

治療薬

①ベンゾジアゼピン系睡眠薬

従来の睡眠薬は、依存性と認知症を誘発する危険性があるため、原則使用しません。

 

②新規睡眠薬

ベルソムラ(スポレキサント)、デエビゴ(レンボレキサント)は、オレキシン受容体拮抗薬に分類される新しい睡眠薬です。脳内にある覚醒ホルモン(オレキシン)の働きを遮断することによって睡眠を促します。クービビック(ダリドレキサント)は2024年12月に発売されたオレキシン受容体拮抗薬です。デエビゴと同様に依存性は低いと言われています。なお、副作用として悪夢、異常な夢があります。

 

③抗うつ薬、抗てんかん薬、非定型性抗精神病薬

組み合わせることによって、睡眠効果を発揮します。

 

④松果体ホルモン・メラトニン

2~5mgの少量で自然に近い睡眠が得られます。副作用なく、多少、夢が増えますが悪夢はありません。

 

 注)私が厚労省の許可を得て輸入している医療用メラトニンは、小児用メラトベルと同じです。

睡眠随伴症

レム睡眠行動障害(別掲)

寝相の悪い病気として有名です。スリープという題名の韓国映画はこの病気を素材にしています。直訳すれば、レム睡眠中の異常な行動による障害となります。スリープ中の暴力によりパートナーにケガをさせる、ベットから落ちる、起き上がって夢遊的に歩いていてケガをする、これだけでも十分困った障害ですが、本当に困るのは、10年以上先に待っているパーキンソン病や多系統萎縮症、さらにその先に待っているレビー小体型認知症などの神経変性疾患の可能性が高いことです。👉詳しくはこちら

 

レム睡眠行動障害の治療

睡眠中の寝相の悪さをスマホビデオで撮影した画像から診断できます。より正確な診断には、一泊入院で精密睡眠ポリグラフ検査を受けて頂くことがあります。診断確定したら、抗てんかん薬、ドパミン受容体刺激薬、メラトニンなどによる内服治療を行います。

深酒→節酒、遅寝→22時就寝など生活習慣の改善は必須です。

将来起こりうる可能性の高いパーキンソン病やレビー小体型認知症を回避するためには、きちんとした診断治療、生活習慣の改善がとても大切です。

 

 注)夢遊症状は、睡眠薬、アモバン、マイスリー、ハルシオン、エスゾピクロンで起きる可能性があります。また、安全と言われているオレキシン受容体拮抗薬ベルソムラ、デエビゴを内服している人にも悪夢、異常な夢による睡眠随伴症が報告されています。

 

 

 

 

参考資料

 

寝なきゃ損ばかり

睡眠は脳の疲れを取る大切な役目を果たしています。記憶の増強(LTP)と不要な記憶の消去(LTD)です。重くなったパソコンから不要なデータを消去すると容量に余裕が戻り動きが早くなります。脳も不要な記憶を消去することによって認知機能(記憶力)が良くなります。脳のゴミアミロイドβの掃除と記憶の整理整頓をしてくれる睡眠は認知機能と情緒の改善に貢献しています。

 

 

 

  新世代睡眠薬

覚醒ホルモンオレキシンの受容体拮抗薬であるスボレキサント(ベルソムラ10㎎、15mg、20㎎)はほぼ副作用はありません。覚醒ホルモンオレキシン拮抗薬レンボレキサント(デエビゴ2.5㎎、5㎎、10㎎)はベルソムラに比べ即効性があると言われています。副作用としてまれに入眠時の異常な悪夢、幻覚を見ることがあります。これら新世代睡眠薬は、試してみる価値はありますが薬効は弱い印象です。

 

高齢者向きの睡眠薬

従来型の睡眠薬ゾピクロン(アモバン)を光学分割して得られたエスゾピクロン(ルネスタ1㎎、2㎎、3㎎)は低力価に抑えられているため副作用の発現リスクは低く、半減期5.7時間、高齢者は若干延長し8時間強のため夜間の睡眠時間にほぼ作用するので高齢者には使いやすいと言われています。厚労省が、唯一警告を出さなかった睡眠薬です。

 

その他

・アミトリプチリン5~10㎎

最初はうつへの薬効が発見されました。この薬はてんかん、三叉神経痛の特効薬であるテグレトールと構造式が近似しています。脳内ホルモンであるノルアドレナリン・セロトニンを増やすことにより、脳幹中脳から脊髄後角に至る下降性疼痛抑制系を賦活化させ、強い鎮痛・鎮静作用を発揮します。鎮痛効果はリリカ・トラムセットより強く、癌性疼痛にも使用されます。片頭痛、睡眠障害、夜間頻尿、夜尿症にも使われます。

 

・バルプロ酸ナトリウム100~200㎎

GABAトランスアミナーゼ阻害作用によりGABA濃度を上昇、またドパミン濃度も上昇させ脳内抑制系を活性させ鎮痛・鎮静作用を発揮します。不機嫌易怒症に対する気分安定化作用、てんかん、片頭痛の特効薬として知られています。神経内科、心療内科、精神科、ペインクリニック領域において広く処方されています。

 

 ・プロプラノロール5~10㎎

1966年Rabkinが片頭痛への有効性を発見、高血圧、頻拍性不整脈に対する効果、抗不安作用など循環器、神経内科、心療内科等で幅広く使用されています。交感神経β受容体に対する抑制作用は強く、自律神経の興奮を鎮静します。

 

・リスペリドン0.5㎎・クエチアピン12.5㎎

保険適応は小児自閉症と統合失調症ですが、気分安定化作用を有し、睡眠を深める作用があり、他剤との相互作用も少ないので、異痛症、睡眠障害などに有効です。リスペリドンはドパミン作動性D2受容体への結合親和性よりもセロトニン作動性5-HT2a受容体に対し10~20倍高い親和性を持っており、思考安定し気分障害を改善します。もう一つの作用は、橋青斑核A6神経にあるα2a受容体に作用し交感神経を鎮静化します。また、興奮覚醒に作用するノルアドレナリンを抑制する作用があります。結果として、睡眠を深めます。

 

 ・クロナゼパム0.5㎎

抗てんかん薬ですが、幅広い診療科で処方されます。exceptionally high use as millions of prescriptions

クロナゼパムはGABAの神経抑制作用を増強することで抗けいれん、筋弛緩、鎮静、抗不安作用を発揮します。臨床上はミオクロニー発作、欠神発作、パニック発作、片頭痛発作、ムズムズ脚症候群、さらに扁桃核から大脳辺縁系の鎮静化作用により恐怖、悪夢、レム睡眠行動障害に効果を発揮します。長期使用は、ベンゾジアゼピン系に属する薬の為、抗コリン作用と認知症へのリスクがあります。

 

睡眠サプリメント

 

プロスタグランジンは痛みを教え、体温中枢を設定し、睡眠を誘発するホルモンです。プロスタグランジンはアデノシンを誘発。アデノシンは視床下部の睡眠中枢にあるアデノシンA2Aを刺激し睡眠を誘発します。このアデノシンA2A受容体を刺激する物質が見つかれば不眠症の治療に革命がおこります。早速アデノシン擬似薬が続々と登場しました。睡眠サプリ酒精酵母6号、他にGABAL-テアニン、グリシンなどの睡眠サプリメントです。